「片腕」のスポットライト

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舞台照明の灯体には必ずアームが付いていますよね。
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今となっては考え難いことですが、アームが灯体の片側にしか付いていない、つまり「片腕」のスポットライトというものがかつて存在しました。

丸茂電機 GL型、GL型

ここで紹介する片腕のスポットライトは、丸茂電機が1930年代に製造していたGL型GN型K型です。
1937年 (昭和12) 年の「舞台照明型録 No.B-6」に出てきます。
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まずGL型、GN型はこんな灯体です。
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この灯体はおそらくアメリカ・クリーグル社の1920年代のカタログに出てくるスポットライトをコピーしたもので、さらに遡ると1910年代のカーボンアークスポットライトを踏襲しています。よって、当時としても古風なモデルだったことが推測できます。


舞台照明の黎明期には、今では当たり前になっている「バトンにスポットライトを吊り下げる」という概念が希薄で、スポットライトと言えば専らスタンドに立ててフォロー用途 (人物を追いかける目的) で使われていたようです。サスペンションライトバトンは無く、地明かりは基本的にボーダーライトとフットライトで作っていました。

このGL型・GN型は、そのような時代の特徴を色濃く匂わせるスポットライトです。外観もアール・デコな時代感を思わせます。
おそらくこの構造ではバトンに吊り下げることはほぼ不可能で、スタンド専用でしょう。1930年代にはすでにT1THなど現代に繋がるスポットライトが開発されていることから、このようなスタンド専用のスポットライトは終焉期に差し掛かっていたものと推測されます。

葉山堂 (@Books_hayamado) さんのツイートでは、1937年の雑誌記事でこのタイプのスポットライトが使われていることが分かります。

よく見ると灯体側面の銘板が「BAGNALL」と書いてある気もしますね。東京宝塚劇場は丸茂電機の施工ですし、バグナル (後の朝日バグナル、現在は舞台照明事業はアルファテクノに移行) は西日本の劇場を得意としていたようなので違うかもしれませんが、フォロー用途など一部のスポットライトのみバグナルを採用したという仮説もあり得るでしょう。


丸茂電機 K型

もう一つ紹介するのは、同じ丸茂電機製の「K型」スポットライトです。

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こちらは前述のGL・GN型に比べるとスマートで近代的な印象になっています。そして、「吊下ゲ用トシテ軽ク便利ニ」との宣伝文からも分かるように、サスペンションスポットとして使うことが意識されています。

また、「廉価ニ」と書かれている通り、他のスポットライトよりも若干安いです。
同じカタログに載っている中で比較すると、フラッグシップモデルのMS型 (初代) がスタンド付き100円、C型 (後のC-8型の原型) が86円、K型が54円です。
約半額の違いがありますね。

この廉価モデルとしての性質から、アームが片腕で設計されたものと思われます。
それにしても、スタンドに乗っている写真、ちょっと傾いていて頼りない感じですね。やはり1kWの灯体を片腕で支えるのは無理があったのでしょうか……。




ところで、同じカタログの次のページには、「TH」が掲載されています。
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……こっちは38円でもっと安いですね。サスペンションライトにも使えますし、アームも現代と同じ両腕仕様です。
K型の廉価版としてのポジションはどうなってしまったのでしょうか……

ちなみに、この「TH型」は、戦後まで販売されたモデルです。
このカタログでは1kWと500Wが掲載されていますが、最終的に500Wモデルは無くなり、T1 (ベビースポット) の1kWバージョンとでも言うべき「小型・廉価な1kWスポットライト」としての立ち位置に収まりました。




少し話がそれましたが、いずれにせよ、片腕のスポットライトは比較的短命だったのかもしれません。ほぼ現存もしていないのではないでしょうか。



現代の片腕スポットライト

現代においても、片腕のスポットライトは無いわけではありません。

しかし、いずれも American DJ 等のローエンド系で、かつ極めて軽量な (1kg以下) 灯体ばかりです。


▲American DJ / PINSPOT LED QUAD DMX (画像をクリックすると商品ページに飛びます)


▲NiTEC / iGOBO (画像をクリックすると商品ページに飛びます)

本格的な劇場向けスポットライトが片腕だったのは、ごく限られた時代と言ってよいでしょう。


【追記】
ムービングライトにはそれなりに片腕の灯体がありましたねそういえば……

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