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【照明哲学】なぜ私たちは「調光」をするのか

ちゃんと考えたこと、ありますか?

 

 


調光の意義

調光、すなわち「明るさを調節すること」の意義は、端的に言って次の2点だと考えられます。

 

  1. 明るさを、オンとオフの中間の状態に調節して維持すること。
  2. 照明状態の変化に、「フェード」という選択肢を追加すること。

 

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

1.明るさを、オンとオフの中間の状態に調節して維持する

まず1.の「明るさを、オンとオフの中間の状態に調節して維持すること」は、舞台照明においては「絵作り (照明シーンの作成)」に関わる機能です。
これを説明するために、「オンとオフしかない舞台照明」を想定してみます。

用意する明かりは3種類。①シーリング、②トップ(上からの地明かり)、③バック としましょう。
これがもし「オン・オフ」しかできない場合、絵作りの選択肢としては以下のようになります。

  シーンA シーンB シーンC シーンD シーンE シーンF シーンG シーンH
(暗転)
①シーリング ON OFF OFF ON OFF ON ON OFF
②トップ OFF ON OFF ON ON OFF ON OFF
③バック OFF OFF ON OFF ON ON ON OFF


8シーンしかありません。
1種類の明かりにつき「オン」「オフ」の2状態しか取れないので、3種類あっても 2×2×2=8 シーンしか作れません。

ホリゾントライトの場合、もっと悲惨です。
赤・緑・青の3色ホリゾントを考えてみましょう。

  シーンA シーンB シーンC シーンD シーンE シーンF シーンG シーンH
(暗転)
①赤 ON OFF OFF ON OFF ON ON OFF
②緑 OFF ON OFF ON ON OFF ON OFF
③青 OFF OFF ON OFF ON ON ON OFF
混色結果 黄色 シアン マゼンタ

色としては7色しか作れません。
この中間の色は全然出せないことになってしまいます。


これでは、消費する灯体数に対して、作成できる「絵」の選択肢があまりにも少なすぎます。
画家に対して、「絵の具の濃さを調節するな。塗るか・塗らないかで描け」と言うのは酷な話でしょう。それと同じことです。


そこで、「フェーダー」の出番です。
28c8cbbe8e3b.png

「フェーダー」を使って、明るさをオンとオフの中間に固定できるとしたら、同じチャンネル数、同じ灯体数に対して作成可能な「絵」のバリエーションが爆発的に増加します。

ある程度経験のある照明家なら、プロアマ問わず3%~5%程度のフェーダー値の違いを見分け、使い分けることになりますが、
初心者の方にはまず、「0」「30%」「50%」「70%」「100%」の5段階での絵作りをおすすめしています。
素人目にも明らかに違う明るさと認識できるはずです。

仮に 0・30・50・70・100 の“5段階法”を採用したとしても、最初に挙げたシーリング、トップ、バックの3種類を使う場合、

5×5×5 = 125種類

もの照明シーンをつくることが可能になるわけです。
8種類と125種類では、表現の幅が全然違いますよね。これなら何とか、灯体が少なくてもあれこれ表現できそうです。


これが「調光」の1つめの効用です。

2.照明状態をフェードで変化させる

これは、演出用途の調光ならではの機能です。

調光ができるおかげで、あるシーンから次のシーンへの切替えを、フェードで滑らかに行うことができます。
これは当然ですが、調光卓のツマミが「レバー」ではなく「フェーダー」とあえて呼ばれるゆえんと考えられ、演出照明には必須の機能と言えるでしょう。


とは言え、ある程度の経験者でも、「シーンごとの照明の絵」という単位でしか照明を見ていないことがあります。

こんな感じで。↓
image.png


照明の進行は、これに似たフォーマットの「きっかけ表」で管理されることが多いので、「絵」に注目した紙芝居的発想になってしまうのは自然なことです。
しかし、さらにレベルを上げるためには、「あると次のの間をどのように繋ぐか」 ということが極めて重要になってきます。

紙芝居でも、じょうずな人なら、次の紙を繰り出すときにいきなりバッと出したり、徐々に出していったりという表現上の工夫をしています。
照明も当然、そういうことが求められます。


つまり、上のようなフォーマットの「きっかけ表」では表現できない「行間」を表現する必要があるということです。

演劇の場合、演出家は照明の専門家ではないので、打ち合わせなどを行っても、単に「フェードチェンジか、カットチェンジか」という程度の認識しかふつうは持っていません。
(それすらもお任せと言う演出家もたくさんいることでしょう)


しかし、「フェードチェンジ(クロスフェード)」と言っても、

  • 次のシーンが上がり始めてから、今のシーンを下げる (自然な変化をする)
  • 今のシーンを下げ始めてから、次のシーンを上げる (暗転ほどではないが、一旦区切ったような印象になる)

のどちらを選択するかというところで随分印象が違いますし、さらにフェード秒数などの要素も加わるため、何十種類ものクロスフェードが考えられます。

これを、演出家の要望や観客に与えたいイメージなどによって使い分ける必要があるのです。

crossfade_1.png

さらに細かく書けば、このようにチャンネルごとに表現することも可能です。↓
crossfade_3.png
常にこのようなチャンネルごとの動きを意識していると考える時間が足りませんが、
たとえばバックのみのシルエットからシーリングが入ってくるような大きな変化の場合、「点灯しきってからさりげなく消す」といった特殊なフェードが求められることが多いです。
(初心者のうちからこのような視点を身につけておくと、オペの上達が早いのではないかと思います)


こうした繊細なフェード表現ができるのも、「調光」のおかげというわけです。

これが、調光の第2の機能です。



なぜ、家庭用調光スイッチはフェードがしづらいのか

Panasonicの「ムードスイッチ」シリーズなど、家庭用の調光スイッチで演劇公演をされている団体さんも多いと思います。
なぜあれは、やたらフェードがしづらいのでしょうか。 

それは、上に挙げた調光の2つの機能について考えればわかります。

すなわち、①の「照明シーンを作る」目的だけを考慮しており、②の「フェードで変化させる」ということは考えられていないためです。

あのタイプの調光スイッチが使われるシチュエーション (部屋や店舗のムード作り、会議の際にプロジェクター映像を見やすくする、etc…) を考えてみても、
「明るさが変わること」が重要なのであり、変化の過程 (=フェードの美しさ) はそれほど重要でないことが分かります。

そのような設計思想の違いからくる問題というわけです。

タグ: | カテゴリ:雑談 [ 2017/09/10 21:40 ]

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